ELDEN RING

※この記事では王都ローデイルでのストーリーイベントのネタバレを含みます。また、断片的な情報を元にした考察ですので、公式の設定とは異なる可能性があります。

 ストーリーを進行すると、王都ローデイルで相対することになる“忌み王”モーゴット。なぜ彼は“忌み”王なのか。王でありながら、なぜ忌むべき存在なのか。
 それには、二つの理由が考えられる。

 ひとつ目の理由、恐らくこれが一番の理由だが、彼には祝福が与えられなかった。

 祝福のない忌み子は、王都の地下に捨てられる。王家の、あまりに深い闇の部分である。それは「忌み捨ての井戸」という名のダンジョンとして、プレイヤーも探索することができる。
 この悪しき伝統については、“王家の忌み水子”というアイテムに書かれている。これはモーゴットの追憶から得られる力であり、彼の受難が偲ばれるアイテムである。


 忌み捨ての井戸に入った瞬間、見ただけで気分の悪くなるような光景が広がっている。美しいものは何一つなく、おぞましいものばかりが蔓延っている。
 そして、そこにいる敵たちには、モーゴットと同じツノのようなものが身体に生えていることに気づくだろう。
 これが、彼が忌まれるふたつめの理由である。

 それは、単に「見た目が恐ろしい」とか「異様である」というだけではない。外見的特徴だけで判断するのは、あまりに悲しく短絡的すぎる。
 それにはもっと他の理由がある。深読みだと思われるかもしれないが、筆者の推論を書いてみたい。

 坩堝(るつぼ)の騎士という敵がいる。このエルデンリングというゲームの中でも強敵として知られ、苦戦した人も多いのではないだろうか。
 この坩堝の騎士、騎士のくせになぜかドラゴンの尻尾のようなものを振って攻撃してくる。なんなんだこれは?と思わなかっただろうか。

 この疑問は、そもそも坩堝とは何なのかを理解すると、納得ができる。坩堝の騎士を倒すことで入手できる、祈祷の説明文を読んでみよう。


 現代でも、多くの人種が住んでいる国・多国籍国家を“人種の坩堝(るつぼ)”と呼んだりする。多くの要素、色んなものが混じり合っている状態を、坩堝にたとえている。
 この狭間の世界でも、意味は同じ。
 さまざまな生物の特徴が混ざっている状態を、坩堝と呼んでいるのだ。

 坩堝の騎士とは、もともとは“最初のエルデの王”ゴッドフレイに仕えた、16人の古い騎士たちである。
 この中には、かの火山館で会うことができる、大柄の騎士も含まれる。ローディング画面で、椅子に座った火山館の女主人タニスの後ろに控えている、あの騎士である。
 ある時点で、ある行動をすると彼と戦うことができるのだが、そのときに彼が落とす祈祷を見てみよう。


 この説明通り、彼は戦闘中にカエルの喉袋のようなものを膨らませ、強力なブレス攻撃をしてくる。やはり人間以外の生物の特徴をうまく使いこなし、戦いに取り入れているのだ。

 人間 + 他生物の能力 = 坩堝の騎士の戦闘スタイル

 ということである。さらにこの説明文では、もうひとつ面白いことが分かる。
 古い黄金樹と今の黄金樹では、なにがしか違いがあった、ということである。“坩堝の樹兜”の説明を読んでみよう。


 “原初の黄金樹”という言葉は、“今現在の黄金樹”と区別する目的で使われているように思われる。やはりこれら二つの間には、なにか違いがあったらしい。
 そして“オルドビスの大剣”の説明文で、さらに詳しいことが分かる。

 原初の黄金は、より生命に近く
 故に赤味を帯びていたという
 この剣は、その古い聖性を宿している

 原初の黄金は、より生命に近く、ゆえに赤味を帯びていた。
 もしかしたら古い時代の黄金樹は、今よりずっと赤い色に近かったのかもしれない。これは、血が通っていた、とも考えられるかもしれない。生命の赤とは、すなわち血液である。
 この考えを裏付けてくれるのは“坩堝の斧兜”の説明である。

 原初の黄金樹、生命の坩堝の力を宿し
 脈管がびっしりと浮き上がっている

 生命、赤、脈管とくれば、やはり血管を想像させる。それがどうして現在の完全な黄金色に変わったのかまではわからないが、考えてみるのも面白そうである。

 ところで、最初の王に仕えた騎士ともなれば、英雄であることは間違いない。さぞかし人々から尊敬されただろう、と想像できる。
 しかし、今の彼らはむしろ蔑みの対象となってしまっているのだ。その根拠となるのが、以下のアイテムである。
(坩堝の防具シリーズは二種類あり、テキストがそれぞれ少し異なる。そのため、両方を抜粋する)


 原初の黄金樹、生命の坩堝の力を宿し
 脈管がびっしりと浮き上がっている
 その姿、そして力は
 後に混沌に近しいとして蔑まれた

 なぜ、英雄とも言うべき坩堝の騎士たちの力が、蔑みの対象になってしまったのか。

 ここからは筆者の推測だが、これは「黄金律が出来たから」だと考える。
 律とは、決まりごとである。法律、戒律など、現代でも「それに従い、守るべきもの」として扱われる。
 そして為政者が、自国の政治を円滑に行うために、

・ある特定の(自分に都合の良い)思想や宗教を推奨し、
 狭間の世界においては、黄金律がそれにあたる。黄金樹を守り、その意志に従うこと。

・ある特定の(自分に都合の悪い)宗教や思想を弾圧する
 これには坩堝の諸相の信仰があてはまる。秩序のないもの・混沌に近しいもの。

 というのは、人類の歴史においても何度も繰り返されてきたことである。同じことが、狭間の地でも起きていたのではないか。
 これは“遠眼鏡”というアイテムの説明からも察することができる。

 カーリア王家の人々の星見の道具
 その一部が取り外され、持ち出されたもの
 遠くの景色が大きく見える
 黄金樹の時代、カーリアの星見は廃れていった
 夜空にあった運命は、黄金の律に縛られたのだ

 黄金律というものが、なにかしらのルール・決まりごとを敷いていったことは間違いない。
 黄金樹、ひいては黄金律は守るべきものであり、それに従わないもの、無秩序なもの、混沌に近しいものは避けるべきであると。
 根拠として、以下に“坩堝瘤のタリスマン”のアイテム説明文を載せる。


 “文明の後には穢れとして扱われた”とあるが、この文明=黄金律と考えればこの説にも納得してもらえるかと思う。国語辞典で「文明」という言葉を引くと、

 【[1] 〘名〙 文教が盛んで人知が明らかになり、精神的・物質的に生活が快適である状態。特に、宗教・道徳・学問・芸術などの精神的な文化に対して、技術・機械の発達や社会制度の整備などによる経済的・物質的文化をさす。】『精選版 日本国語大辞典より』

 様々な思想や土着信仰が混ざりあった坩堝(混沌)の状態から、黄金律の登場によって思想・宗教などが整備された。管理する側の都合が良いように一本化された。
 分かりやすいよう、時系列的に並べてみる。

一、原初の生命の時代(生命は混じり合った坩堝、混沌の状態だった)
二、最初のエルデの王、ゴッドフレイの時代(原始的なものが尊敬され、神聖視された)
三、文明以降(黄金律=文明が発達し、原始的なものは忌避された)

 みんなが同じルールを守って、同じ宗教を信じて、それを守って生活する。政治を行う側にとっては、こんなにコントロールしやすい状態は他にない。ルールを作り上げるためには、まずは「して良いこと/してはいけないこと」を区別する必要がある。
 人々が従うべきなのは、黄金色の“今現在の黄金樹”であって、赤色の“原初の黄金樹”ではないのである。

 そして恐らくこれは、ゴッドフレイが追放されていることとも関係がある。
 ゴッドフレイは王でありながら狭間の地から追放され、褪せ人となった。
 祝福を失い、黄金樹の加護から遠ざかってしまった。

 つまり黄金律というルールから、外れてしまった人ということになる。

 ルールに従わないもの、ルールとは真逆にあるものは悪だ。避けられるべきものだ。
 ルールと真逆にあるものとはなにか。すなわち混沌、なんの脈絡もない、一定の決まりごとがないものである。
 主人たるゴッドフレイが追放されたことで、その配下である坩堝の騎士たちも尊敬や信仰の対象からは外れてしまった。
 ここで坩堝の手甲のアイテム説明をもう一度思い出してみよう。

 
その姿、そして力は後に混沌に近しいものとして蔑まれた。

 黄金律は守るべきもの、それに違反するものは悪いもの。そういった思想が少しずつ人々に浸透していった結果、古くは神聖視されていたものが真逆の意味になってしまった。
 文明的でないものは避けるべきもの、原始的なものは劣っているもの、そう考える人は今の時代にもいるだろうが、同じことがこの狭間の地でも起きているのである。
 “緑琥珀のメダリオン”というタリスマンがある。


 原始的なものが特別な宝石として扱われた時代は、とうに過ぎ去ってしまった。
 身体からツノのようなものが生えて産まれたモーゴットは、忌むべき存在となった。祝福もなく、坩堝(混沌)に近しい要素をもって生まれてしまったことが、悲劇のはじまりである。
 原初の時代なら、むしろモーゴットの身体的特徴は、神聖なものとして崇められたかもしれない。けれど文明の後は、その思想は打ち捨てられてしまった。

 ここまで来ると、黄金律に従うことが、祝福を持っていることがそんなに偉いのかと、思わず反発してしまいそうにもなる。褪せ人というだけで蔑まれるような立場なら、なおさらだ。

 けれど“忌み”王モーゴットは、そうしなかった。

 忌み子として扱われ、遠ざけられてもなお、黄金樹を守り続けた。
 その健気さ、献身的な姿勢に、涙が出そうな気持ちになる。
 玉座の前で、他のデミゴッドたちの空席に向かって怒りの台詞を吐いたのも、納得がいく。

 狭間の地で一番に報われるべきなのは、モーゴットなのだ。
 私はそう思えてならない。