大逆転裁判1&2 -成歩堂龍ノ介の冒險と覺悟-

※この記事には本作に関するネタバレが含まれます。
発売日:2021/7/29
ジャンル:大法廷バトル
評価:★★★★★
すべての点が線でつながっていく過程の気持ちよさ!芸術点をつけたい!

 「物語のはじめに起きた一見なんでもない事件が、実は最後の事件と繋がっていた!」という展開が好きだ。パッと見ただけでは無関係のように思われる小さな点を、ひとつひとつ結びつけていく過程が好きだ。そのために逆転裁判シリーズをプレイしていると言っても過言ではない。
 バラバラになっていたパズルのピースを組み上げていくような面白さ。そうして出来上がった絵がこんなにも緻密に仕組まれていたのかと、ハッと驚き息を呑む瞬間の心地よさが好きだ。逆転裁判シリーズは、いつもそのような面白さと驚きをプレイヤーに与えてくれる。
 作品の最初から最後までを貫いている大きなストーリーの流れと、章ごとの小さなストーリーの流れがあり、プレイを進めていくうちに少しずつ大きな流れの全貌が見えてくる。その瞬間が好きだ。
 しかも本作はひとつの作品だけではなく、1と2をあわせた大本流ともいうべきストーリーラインが存在する。ただでさえ一作でも面白いのに、それが二作にわたるとは。こんなに楽しんじゃっていいのかな、とあまりの贅沢さに不安を覚えてしまうほどだ。
 大逆転裁判1と2を結ぶ大きな話の流れ、その中心にいるのはいうまでもなく「プロフェッサー」という存在だ。大英帝国の闇と呼ばれるその存在は、いったい何者なのか。謎を追っていくうち、今までに起きたひとつひとつの事件が、徐々に「プロフェッサー」という一点に集約されていく気持ちよさたるや。
 シャーロック・ホームズが登場する物語でプロフェッサーと言われれば、すぐさまジェームズ・モリアーティ教授を思い浮かべるだろう。名探偵vs犯罪界のナポレオンという、あまりにも有名すぎる対立構図だ。
 しかし本作ではシャーロック・ホームズという世界中の誰もが知っている名探偵の“お約束”からは、あえて遠ざかるような設定がいくつも見られた。ホームズという超主役級の人物を、あえてサポートに徹する脇役としているのも面白い点だと思った。

―『シャーロック・ホームズ』という存在
 「物語の主人公が、かの有名な探偵“シャーロック・ホームズ”の相棒になる」というストーリーは、古今東西の映画やドラマなど様々な媒体で繰り広げられてきた、まさに王道といった設定だろう。
 ところが本作ではそういった王道とは外れていて、なおかつ実際の相棒はジョン・H・ワトソンでもない、というのが注目すべきところだ。ホームズの相棒が実は日本人だったというだけでも衝撃的なのだが、名前がワトソンですらないというのもかなり意表を突く設定だ。
 “ホームズとワトソン”を誰もが知っているからこそ、その裏をかいた人物設定が活きるというのは、世界的な有名人ならではの面白さだといえるだろう。
 また、ホームズとその相棒がこの物語の中ではどちらかといえば脇役であり、そのおかげで離れた場所から主人公のサポートが出来る、というのはとても面白い展開だ。
 しかも終盤のあるシーンでは実際にプレイヤーがホームズの相棒を操作することができ、非常に“熱い”場面展開となっている。何より、ここで流れるBGMが本当に良いのだ。あの特徴的なイントロが流れてきた瞬間、自分でも理由がよく分からないまま涙が出そうになった。
 様々な人々が主人公である成歩堂のために力を尽くしている、それがプレイとともに実感できて嬉しかったのかもしれない。

―バロック・バンジークスというキャラクター
 逆転裁判シリーズに登場してきた検事たちの中でも、バロック・バンジークスは非常に論理的で公平な人物である。厳格な性格だが、やむを得ない事情で罪を犯してしまった人へ理解を示し、情状酌量をする柔軟さもある。
 彼の存在が、この作品の裁判シーンのテンポの良さや楽しさに大いに貢献しているように感じた。彼はとかく論理(ロジック)を重視するタイプの検事である。ロジックで攻めてくる相手には、同じくこちらもロジックで相手に出来るので非常にやりやすいのだ。
 歴代のシリーズに登場してきた検事たちの一部に見られた過剰な人格攻撃や、武器を振り回すなどの理不尽な暴力もない(もちろんそれらはキャラクターの個性を際立たせるための演出であることは分かっているのだが、プレイしていく中で時おり納得がいかないと感じる部分もあった)。
 しかしながらこのバンジークス検事は、論理と証拠さえあればそれ以上グダグダ言わずに受け入れてくれる、非常に明快な人物である。さらに飲み込みも早く頭の回転も良いので、審理がとにかくテンポ良く進む。過剰な異議申し立てもしないところがまた良い。
 打てば響く、というようなやり取りがとても楽しい。一を聞いて十を知る、という言葉のごとく、証拠一つでこちらが伝えたい意図を充分に汲み取ってくれる。優秀な検事、という設定に大いに納得できるキャラクターだった。

―一挙手一投足が美しい3Dグラフィック
 モーションキャプチャーによる画面づくりのおかげで、本作に登場する人物たちはみな生き生きとした動きを見せてくれる。特に証言台に現れる人々の、時に奇怪で、突飛で、独特な動作はついついじっくりと観察してしまったほどだ。お辞儀などの優雅な仕草は本当に美しく、思わず目を引かれる瞬間も多かった。
 手足の動作だけでなく、表情の細やかさも注目されるべきものだ。「目は口ほどに物を言う」の言葉どおり、推理の場面では人間の目の動きも重要な手がかりとなる。というのが作中でも語られているが、その目の動きは特に制作側のこだわりを感じる出来だった。
 そしてなにより涙の表現が美しい。大粒の涙や、目に薄っすらと浮かぶ涙、気丈に堪えるときの涙など、表現の幅の広さも特筆すべき点だ。ジーナがグレグソン刑事のことを涙ながらに語る場面など、思わずもらい泣きしてしまいそうになった瞬間もあった。

―どれをとっても素晴らしいBGMの数々
 今作は舞台が大英帝国のロンドンということで、オーケストラを主体とした重厚な曲や異国情緒あふれる軽快な曲が多い。そのどれもが素晴らしいものばかりだった。
 そしてそこに時々差し込まれる和テイストな曲(寿沙都や亜双義のテーマがそれだ)がまた新鮮に感じられて良い。
 特に印象に残っているのは
・亜双義一真〜使命のサムライ
・バロック・バンジークス〜大法廷の死神
・追求への前奏曲
・追求〜大逆転のとき
・相棒〜The game is afoot!
・大追求〜成歩堂龍ノ介の覺悟〜
 だろうか。その曲を聞いただけでそれが流れていた場面・その時の感情まで思い出せる、というのが私の中での名曲の必須条件だ。そういった意味では、この作品で流れるBGMはどれも名曲の条件をクリアしていると言っていいぐらい、情景や人物が思い浮かぶものばかりだ。
 サウンドトラックを聴いていると、またあの場面に戻りたくなる。もう一度ゲームを起動して、登場人物たちに会いに行きたくなる。そんな感情にさせてくれる、大切な曲たちばかりだ。
 そしていつかまた、新しい作品で彼らと再会できたら。こんなに嬉しいことはない。