Tangle Tower

※この記事では本作における犯人の正体やトリックなどの致命的なネタバレは避けてあります。
発売日:2021/10/7(PS4版)
ジャンル:推理アドベンチャー
評価:★★★☆☆
終盤の駆け足展開だけが惜しい良作ゲーム!テンポの良さは抜群!

 まずは、このゲームのあらすじを公式のリリース文から引用したい。

――19歳の少女Freya Fellowが殺害された。

 肖像画を描いている最中に死亡したと見られる彼女の胸には、一か所の刺し傷あり。凶器は見つかっていないが、未完成の絵に描かれている被写体はナイフを手にしている。そして、そのナイフの先についている赤色は、絵の具ではなく血液だった…。


 ミステリーの開幕としては百点満点の、とても魅力的な導入だといえる。殺害されたのが“肖像画を描いている最中”だという不思議な違和感、被害者が“19歳の年若き少女”だという悲劇性、なにより“絵の中の被写体が血の付いた凶器を持っている”というあまりにも不可解な謎。
 主人公である探偵のGrimoireと助手Sallyは、その謎を解き明かすために舞台となるTangle Towerへと向かう。このTangle Towerと呼ばれる屋敷は、周りをぐるりと湖に囲まれていて外界と行き来できる手段は小舟のみ。ミステリーにお誂え向きの、非常に閉鎖的な場所だ。
 しかも“閉鎖的”なのはなにも物理的な意味だけではない。この湖に浮かぶ孤島にはかなり長い歴史と伝統が残されており、それを守る人々は血筋や家柄や遺産といったモノに縛られてしまっていて、他所者の存在をあまり良しとしない。人間関係においてもかなり閉鎖的だ。
 金田一耕助の世界にでもありそうな雰囲気がひしひしと伝わってくるなか、探偵は調査を開始する。

―個性が溢れすぎるキャラクター
 当然ながら事件の捜査となれば、まずは関係者に話を聞きまわることになる。ここで前述のような複雑な人間関係が徐々にあらわになっていくわけだ。この関係者たちはとにかく一癖も二癖もあるような人物ばかりなのだが、その個性的なキャラクターたちが本作の魅力ともなっている。
 本作は全編フルボイス(音声は英語のみ)で、ちょっとした会話もすべてが声優のセリフ付きで繰り広げられる。さらにキャラクターたちの動作は手描きのアニメーションで表現され、細かな仕草や表情の変化を非常になめらかな動きで楽しむことができる。そしてそれが、キャラクターたちの個性や魅力に繋がっているのだ。
 会話の中身も良い。制作会社はイギリスとのことだが、ちょっと皮肉まじりのやり取りであったりジョークであったりが、テンポよく交わされる。ローカライズ(翻訳)が丁寧にされているので、ジョークの意味がわからず楽しめないといったこともない。
 とにかくGrimoireとSallyのやり取りが面白いので、彼らの会話を聞くためについ関係のなさそうなところまで調べてしまう、といったことも多かった。

―非常に親切なゲーム設計
 この作品のシステムを大雑把に説明すると、逆転裁判の捜査パートをメインにしたようなゲームだ。とにかく部屋のありとあらゆるポイントを調べて、事件の証拠を集めていくのが主になる。
 この調べられるポイントの豊富さもこのゲームの良いところで、かなり詳細に現場の中を調べることができる。しかもそのポイント一つずつにフルボイスのコメントが付く、という贅沢っぷり。事件とはまるで関係のなさそうなところでも、ちゃんとそれに関する会話が用意されていて感動したほどだ。
 もし捜査のあいだに行き詰まってしまっても、ヒントボタンを押すことで次に行くべき場所や話を聞くべき人物を教えてくれるので、物語に集中できるのも評価すべき点だ。すでに会話した人物や調べた証拠品にはチェックマークが付いてパッと見分けることができるし、なにか新発見があればすぐさま情報が更新される。
 とにかく物語をスムーズに進行できるよう、親切にシステムを設計されていると感じる。難解な謎やパズルを求める人には物足りなく感じるかもしれないが、ストーリーに集中できるという意味ではこのほうが向いているように思った。

―物語終盤の駆け足展開
 それだけストーリーに没入できるよう作られているにも関わらず、そのストーリー自体がかなり尻切れトンボ的な終わりを迎えるのは非常に残念と言わざるをえない。
 追い詰められた真犯人が最後に自白をはじめるのは探偵モノの定番の流れだが、
・その会話の中で初めて出てくる用語や設定があり、混乱を招いている
・そもそも人物の掘り下げが足りていないせいで、いまいち犯人に同情も反発も出来ない
・犯人の罪がはっきりと裁かれずに終わる
 といったかなりモヤモヤの残る結末を迎えてしまう。そのせいで、せっかく今まで積み上げてきたこの作品の良さというものが一気に崩れてしまったような、何ともいえない寂しい気持ちにさせられる。「素材はとてもいいのだが、料理の仕方が下手」というような言い回しが頭に思い浮かんでしまう。
 あれだけ興味を惹かれる導入であっただけに、推理モノとしての完成度を考えるとちょっと切ない。結末部分以外は本当に良いゲームなのだが。