ドキドキ文芸部プラス!|レビュー
ドキドキ文芸部プラス!
※この記事には本作に関する重大なネタバレが含まれます。
発売日:2021/10/07(アジア版)
ジャンル:アドベンチャー
評価:★★★★☆
可愛い絵に騙されていると、とんでもない不意打ちをくらうゲーム
発売日:2021/10/07(アジア版)
ジャンル:アドベンチャー
評価:★★★★☆
可愛い絵に騙されていると、とんでもない不意打ちをくらうゲーム
「可愛い女の子とイチャイチャして癒やされたい」そう思うのは自然の摂理である。筆者は女性であるが、その願望に性別は関係ないと思っている。誰だって可愛い女の子が好きだ。柔らかいもの、丸いもの、ふわふわしたもの、そういったものに癒やされたいのだ。
そして本作を普通の恋愛ゲームだと思ってはじめた私は当然のごとく好きなキャラと恋愛関係になる選択肢を選び、結果として狂気の世界へと足を踏み入れてしまったわけであります。
確かにゲームを起動したとたん、何やら物々しい警告が表示されたのは確認している。「子供にふさわしくない内容」とか「刺激の強い表現」とか。それを私は「ちょっとお色気要素強めかな?」とか「ヤンデレっぽい子がいるのかな?」ぐらいにしか思っていなかったのである。
序盤は恋愛アドベンチャーゲームによくある雰囲気にどっぷりと浸からせてくれるので、そこに安心を覚えてしまったのもある。まずはこの子と付き合おうかな、ぐらいの軽い気持ちで幼馴染であるサヨリに告白する。ここまでは良かった。
主人公が自室で首を吊るサヨリを発見するまでは。
ここからは一転、あらゆるホラー的表現のオンパレードになる。私のような心臓に毛が生えているタイプならいざ知らず、ビックリドッキリ系の表現が多いため苦手な方には少々つらいだろうと思われる。
でも何より悲しかったのは、ゲーム内の世界からサヨリの存在自体が“かなり雑なやり方で”消されてしまっていたことだ。ゲームメニューのサヨリのイラスト部分には別のキャラクターのイラストがモザイクのように上書きされていたり、サヨリの名前が文字化けのような表現になっていたり。
誰がこんなひどいことを、どうして。そう思ってしまった時点で、プレイヤーの思考は上手くゲーム作者に乗せられてしまっているのだ。サヨリに続いて同じ文芸部員であるユリまでもがおかしくなってしまい、彼女もまた主人公の目の前で命を絶ってしまう。そこへすべての黒幕とでも言うべき人物が登場するのである。
モニカはユリの遺体を見てもどこ吹く風で、それどころか主人公へ軽い気持ちで謝ってみせる。「こんなにスクリプトが壊れているなんて知らなかったの」と。そこで今までの疑念が一気にまとまるのである。PCのデスクトップ風のメニュー画面や、時おり表示されるプログラミングのソースコードや、人物の名前が文字化け風に表示されていたこと、存在していた部員たちがいとも簡単に存在を消されてしまったこと。
このドキドキ文芸部の世界はプログラム上の仮想世界で、その管理者権限をもつのがモニカであること。
モニカは自分自身と主人公以外のオブジェクトをすべて削除し、二人だけの空間を作り出してみせる。そして改めて語りかけてくるのだ。主人公に対してではなく、プレイヤー自身に対して。実際にモニカは、私がゲーム内に入力した“そるか”という主人公名ではなくPSNIDである“Ver_775”のほうで私を呼んでくるのである。
この時点で主人公の存在というのも抹消されてしまっていると思っていいだろう。というのも、今まで存在していた選択肢や主人公の心理描写といったものが消え去ってしまうからだ。ここにいるのは私とあなたの二人だけ。そしてモニカの長い独白がはじまる。
モニカは実にさまざまな話題を提供し続けてくれて、私はそれがループし始めるまでひたすら聞き続けていたのだが、おそらく30分ほどかかったかと思う。そのなかでも物語にとって重要な部分は、モニカはこのプログラムの世界に閉じ込められていて、ずっと外界との繋がりを求めていたということ。
彼女もまた被害者で、今までの行動はなんとかこの世界の外側へコンタクトをとるため、そして自分の正気を保つための方法でもあったこと。そう言われると同情心も湧いてくるのだが、この物語を先へ進めるためにはプログラムから彼女のデータを消さなければならないのである。
最初は激昂したモニカも、最後にはそれでいいと背中を押してくれるだけに、よけい辛い。モニカから本当に他の部員のデータを消したわけではないことを伝えられ、辛さがピークに達する。そしてモニカの存在は完全に抹消され、かわりに復元された他の部員たちのいつもどおりの日常が始まる。
この物語は決してハッピーエンドではないのだ。モニカは自身が抹消されることを本心では望んでいなかっただろうし、他の部員たちだって彼女を失ったまま安穏と暮らせるわけがない。なんとかこのエンディングを覆したくてトゥルーエンドまでプレイしたが、結末は変わらなかった。残念。
しかしこのメタ的な視点まで利用した物語づくりは、本当によく出来ていると感じた。モニカのデータを消去する手順も、実際にプレイヤーがフォルダからファイルを選択し消去するまでを行うのだ。プレイヤーを作品の世界に引きずり込み、物語に介入させるその巧みさ。
そして逆に、モニカというキャラクターは管理者権限を利用してこちらのプレイに介入してくる。セーブ機能を停止してしまったり(もちろん裏でオートセーブは動いているが)、「私の話をちゃんと聞いて」とスキップ機能を消してしまったり。プレイヤーとキャラクターが同じ土俵にいる面白さ、そんなものをこの作品は感じさせてくれた。
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