LOST JUDGMENT:裁かれざる記憶

※この記事には本作に関する重大なネタバレが含まれます。
発売日:2021/9/24
ジャンル:リーガルサスペンスアクション
評価:★★★★☆ 
続きが気になる素晴らしいストーリー!でもちょっとツッコミどころもアリ?

 前作のジャッジアイズが個人的に高評価だったこともあり、今作はアーリーアクセス権付きのデラックス版を予約し、日付が変わると同時にプレイ開始。期待を裏切ることのなかったストーリー展開は、今作もかなりの高水準を維持していました。
 ただ今作はテーマがはっきりとした結論のつけられるものではなかったこともあり、特に結末に関してはプレイヤーの間でも意見の分かれるものとなったようです。実際、制作側のスタッフのあいだでも、結末に関して何度も議論がかわされたとの話があります。
 意見の分かれる要因となったのは、言うまでもなく桑名の存在でしょう。俳優の山本耕史さん演じる桑名仁は、はじめ異人町の便利屋と名乗って八神の前に現れます。しかしその正体は、過去に教え子をイジメで自殺未遂にまで追い込まれ、その復讐に燃える元教師だった。
 現代でもイジメ問題はたびたびニュースにもなりますが、その加害者がちゃんと裁かれることは少ないと感じざるをえません。その理由は様々。学校や教育委員会が隠蔽してしまった、確実な証拠が見つからなかった、などなど。今作はそういった問題に一石を投じる内容となったわけです。
 法では裁かれなかった相手に、自分の手で裁きを下す。フィクションの世界ではそう珍しい行動ではありませんが、現実で実行できる人は少ないでしょう。しかし今作のイジメという誰もが一度は見たこと(あるいは受けたこともあるかもしれない)身近な要因によって、「もし自分だったら〜」と思わず考えてしまう真に迫る内容になっていたと思います。
 桑名にとって法は万全ではなく、イジメ加害者に下されなかった裁きを代わりに自分が下すことが正義だと主張します。これに反論することは容易でしょう。彼のやっていることはいわば身勝手な私刑であり、そんな権利は誰にもないわけです。相手を殺してしまえば、言われるまでもなくそれは殺人罪です。理屈の上ではそうだ。けれど感情の上ではどうでしょう。
 イジメという表現はヌルすぎる。そういう意見をたびたび目にします。実際に大人がやれば恐喝罪、侮辱罪、暴行罪、そういったものが、学校の中で行われているだけ、未成年が行っているだけで「イジメ」という軽い言葉で済まされてしまう。
 それが原因で、作中ではイジメ被害者が自殺あるいは自殺未遂をおこしています。そこまで人を追い込んでおきながら、イジメ加害者たちは何食わぬ顔。卒業後は良い大学に進み、一流の企業に就職し、裕福な家庭を築いている。
 そこで桑名の言葉が響いてくるわけです。そんな彼らを許せるのか?はたして許していいのだろうか?証拠がないというだけで裁かれない、それに納得できるだろうか。理屈ではダメだと分かっていても、もし身近な人がそんな目に合わされたら、なにか仕返しをしてやりたいと思ってしまうのではないだろうか?

―今作の問題点
 今作の最大のポイントは、プレイヤー自身が八神に共感するか、あるいは桑名に共感するかというところだと思います。意見が真っ二つに分かれるのは、自分がどちらに同意するかということ。
 法から外れた裁きを掲げる桑名に対して、八神はやはり法を守ることを選びます。確かに今は法が不完全で、そこから零れ落ちてしまう加害者あるいは被害者がいる。けれど法も変わり続けている、今は無理でもいずれは。そしてそれまでは、法から零れ落ちてしまう被害者を出来るかぎり自分が救いつづけると説得するわけです。
 なぜ説得かというと、桑名の起こした複数の犯罪には証拠が残されていないからです。つまり法廷での裁判ではなく、情に訴えて彼に行動を止めてもらう以外に方法がない。そこで問題になるのが、桑名を止めるためのキモとなる説得材料です。
 しかし今作はそれがあまりに少なすぎたと言わざるをえません。ツッコミどころアリと書いたのは、まさにそのことです。
 今作の一連の桑名による犯行の過程で、澤先生という犠牲者が出ています。彼女は正義感のある高校教師で、イジメをしたわけでもそれに加担したわけでもない。そんな無辜のひとが、桑名が直接手を下したわけではないものの、彼の陰謀の渦に巻き込まれる形で命を落としている。
 八神は彼女の名前を繰り返し出しながら江原や楠本、桑名といった事件の中心人物たちを説得しようとします。その回数は正直に言ってしまえばしつこいほどです。劇中でも桑名が「くどい」といって切り捨てる場面があるほど。
 そんな姿を見ているうちに、他に説得できる材料はないのだろうかとプレイヤー側が考えはじめてしまう。それがせっかくの没入感を妨げてしまうのです。たしかに八神の言ってることは正しい、澤先生の犠牲はとうてい許されるべきものではないことも分かっている。けれど反論はそれしかないの?――だったら桑名のほうに分があるんじゃないか?と。

―最後に
 どちらが正しい悪いというような単純な問題ではないテーマに、よく言われるような「死んだ人はそんなこと望まない」とか「家族が知ったら悲しむ」とかいった安易な結論で片付けなかったことは本当に評価できると思います。
 それでこそ登場人物の心情に寄り添い、共感し、自分だったらどうするかと真に迫って考えることが出来るのです。綺麗事なら誰でも言えますから、そんなものは求めていないのです。もっとずっと人間臭くて泥臭い結論、それがこのシリーズの良いところだと思っています。
 けれどだからこそ、八神にはもっと決定的な言葉をもっていて欲しかった。ともすれば桑名のほうに引き寄せられてしまう自分を、八神にバッサリと切り捨ててほしかった。そんな寂しさのような気持ちを抱いてしまうところが、このストーリーの惜しいところだと思いました。