428〜封鎖された渋谷で〜

発売日:2018/9/6(PS4版)
ジャンル:サウンドノベル
評価:★★★★☆
複雑に絡み合うストーリー!システム面では若干の不便な点あり

 私はかつてプレイステーション(初出はセガサターン)で発売された『街〜運命の交差点〜』という作品のファンである。本作はその『街』から10年後の世界という設定らしい。といってもストーリーに直接的な繋がりはなく、『街』をまったく知らない人でも楽しめるようになっている。
 かくいう私も『街』をプレイしてからはかなりの年月が経っているので、正直に言って細かい部分はほとんど忘れてしまっている。そのため新鮮な気持ちでプレイすることが出来た。
 『428〜封鎖された渋谷で〜』は立場も年齢もまったく違う5人の主人公が、やがてひとつの大事件に巻き込まれてゆくストーリーとなっている。
 私はそれぞれが独立した(ように見える)複数のストーリーラインが、最終的に大きな一つのストーリーに繋がっていく構成が好きだ。つまりこういった群像劇は大好物だ。
 登場人物たちそれぞれに“協力している”という意識はないにも関わらず、プレイヤー目線(神の視点)からは結果的に窮地を救い合っているとか。複数の主人公がまったく別々のルートを通って、最後にまったく同じ一つのランドマークに辿り着くとか。そういう展開がとにかく熱くて好きなのだ。同じ好みを持っている人なら、間違いなくこの作品を楽しめるだろう。

―操作できる“実写”という魅力
 本作はノベルゲームの中でも珍しく、イラストではなく実在の役者がそれぞれの登場人物を演じている。ノベルゲームはシステム上どうしても絵面が地味になりがちだが、実写のおかげでまるで映画を観ているかのような臨場感が味わえる。
 ただ一枚の画像をダラダラと見せているようなことは決してなく、かなりの枚数の場面写真が次々と画面に展開されていくのだ。静止画かと思いきや動きがついていたり、話の流れに合わせてテンポ良く場面転換されるので飽きることがない。
 動画ではない、写真をストーリーに合わせて次々と見せてゆく紙芝居のようなやり方で、ここまでの緊張感を演出できるものかと感心したほどである。もちろん“サウンドノベル”ゲームであるので、“ノベル”部分の力も大いにあるのだが、それにしても。合間合間に挟まれる海外ドラマの予告風のムービーも、続きが気になるように上手く作られている。
 また本作はゲームという特性のおかげで、単なる実写映画やドラマよりももっと味わい深いものに仕上がっていると思う。大筋のストーリーは決められているにしても、それまでの道筋を自分で操作できるという感覚は何物にも代えがたいものだ。
 この作品には多数のバッドエンドが用意されており、真のエンディングに達するにはそれなりの手間と苦労がある。それを乗り越えてこのゲームをクリアしたとき、同じく作中で困難を乗り越えたキャラクターたちへの愛着がグッと増すのである。達成感もひとしおだ。
 映像作品とゲームとの違いはここにあると私は考えている。キャラクターと同じ苦労をともにしたという連帯感、やっと真相にたどり着いたときの強力な達成感。ただ映像を見ているだけでは味わえないものがそこにある。

―御法川実というキャラクター
 複数いる主人公たちの中でも、私は特に御法川実というキャラクターがお気に入りだ。破天荒なだけのキャラクターかと思いきや、内側には非常にアツいものを持っている。仕事にかけるプライドや信念、正義感も人一倍ある。彼のスペシャルエピソードを読んだときには感動すらしてしまったほどだ。
 とはいえ破天荒さが全面に出ているキャラクターなので、人によっては合う合わないがあるかもしれない。しかしこういう人物が急に真剣で熱いところを見せると、そのギャップにやられてしまったという経験は誰にでもあるのではなかろうか。私にとってはまさにそれであった。かつての上司の窮地を救うため東奔西走する、嵐のような男。その物語は強烈に私の印象に残った。

 本作の初出は2008年ということもあり、セーブがオートセーブのみであったりスキップ機能に少々クセがあったりと不便な点もいくつかある。しかしそれを補ってあまりあるほどの面白さを味わえた。傑作と言われているのも納得のゲームだ。